419 — 359 Ma
デボン紀
魚類が海を支配し、最初の森林と両生類が陸地を征服する。
海洋
中期デボン紀、およそ3億9300万〜3億8700万年前の暖かな浅海では、波に洗われる礁嶺が、淡褐色のドーム状をなす層孔虫ストロマトポラ(Stromatopora)と枝状のアンフィポラ(Amphipora)、蜂の巣状群体のタビュレートサンゴ・ファボシテス(Favosites)、そして角サンゴのヘリオフィルム(Heliophyllum)によって数メートルの規模で築かれていました。画面では、その明るい炭酸塩質の礫や石灰泥の上を、まだ魚類の“現代的なサンゴ礁”が現れる前の海を代表する三葉虫ファコプス(Phacops)が、大きな複眼を光らせながらゆっくり這っていく姿が見えるでしょう。これは熱帯のエピコンチネンタル海に発達したデボン紀の礁生態系で、層孔虫とサンゴが一体となって骨格を組み上げ、当時の海で最も複雑な生息空間のひとつを生み出していました。
後期デボン紀、約3億8000万〜3億6000万年前のローレンシア西部の熱帯外洋棚では、頂点捕食者ダンクルオステウス・テレリが、銀灰色の初期サメ、クラドセラケの群れへ一気に突進していました。画面には、重装甲の頭胸甲と“歯”ではなく自己研磨される骨質の顎板をきらめかせる全長5〜6 mの板皮類が、薄暗い青緑の海を切り裂く緊迫の瞬間が描かれ、その脇を縞模様のアンモノイド類マンティコケラスが漂います。水中に満ちる微粒子と、下方へ沈むにつれて濃くなる暗がりは、深部に酸素の乏しい海盆が広がっていたことを物語り、生命の革新と海洋危機が同居したデボン紀の海の息づかいを伝えています。
中期デボン紀、およそ3億9300万〜3億8700万年前の暖かく澄んだ浅海の炭酸塩棚では、ウミユリ類のCupressocrinitesとTaxocrinusが密生し、最大約1メートルの茎を立てて、黄味やクリーム色、赤褐色を帯びた羽毛状の腕をゆるやかな海流にそろえて揺らしていました。海底には腕の長い腕足類Mucrospiriferや丸みのあるAtrypaの殻が厚く積もり、ところどころで円錐形の巻貝Platycerasがウミユリの萼の近くに付着して、共生に近い関係をうかがわせます。淡い石灰質の砂泥と砕けた殻片に覆われたこの風景は、魚が主役になる以前から、棘皮動物と腕足類が広大な海底草原のような生態系を形づくっていたことを物語っています。
後期デボン紀、約3億8300万〜3億5900万年前の大陸棚の下では、淡い光の届く浅海縁から深い海盆へ向かって水は緑がかった黒へと沈みこみ、海底には酸素に乏しい静かな有機質泥が薄く積もっていました。画面には、後に黒色頁岩となる細かな泥と、鈍い金色を帯びる黄鉄鉱に富んだ縞が広がり、ほとんど生物の姿のない海底の上を、放散虫の仲間であるラジオラリアがごくまばらに漂っています。こうした無酸素の海盆は、後期デボン紀の海洋危機を物語る重要な環境で、陸上に広がり始めた森林からの栄養塩流入や海の成層化が、豊かなサンゴ礁の海の陰で静かな生態系崩壊を進めていました。
後期デボン紀、約3億8,500万〜3億6,000万年前のローラシア大陸縁辺では、河口デルタの泥質水路の向こうに、最初期の森林をつくった高さ20〜30 mのアルカエオプテリス(Archaeopteris)と、より低いワティエザ類似のクラドキシロプシダ類が立ち並び、湿った岸辺にはヒカゲノカズラ類ドレパノフィクス(Drepanophycus)が群生していました。タンニンを含んだ緑褐色の淡水は浅い海へ広がり、流木や植物片が運ばれることで、陸上植物が海の堆積物や栄養塩の循環を大きく変えはじめていたことがわかります。水面下には初期の硬骨魚類や小型の板皮類がひそみ、森と海が結びつきはじめた“深い時間の転換点”を静かに物語っています。
デボン紀後期、約3億7500万年前のローラシア大陸縁辺の汽水性潮汐水路では、全長約2.5メートルのティクターリク(Tiktaalik roseae)が泥質の浅瀬に半身を沈め、頭上寄りの目と可動性のある首を使って獲物をうかがっていました。画面には、手首のように体を支える頑丈な胸びれを泥に突き立てたこの肉鰭類が、茶褐色の水中を泳ぐ小型の条鰭類や他の初期硬骨魚類を待ち伏せする姿が描かれます。周囲には初期のシダ状植物や前裸子植物の根がのぞく湿ったデルタ地帯が広がり、魚類から四肢動物への進化の節目となった、海と陸の境界世界の息づかいを伝えています。
中期〜後期デボン紀(約3億9000万〜3億7000万年前)の温暖な浅海炭酸塩棚を、巨大な暴風雲の下から見下ろす場面です。白波が石灰岩・苦灰岩の礁縁に砕け、ストロマトポロイド海綿と床板サンゴ・四放サンゴが築いた礁体の破片、ウミユリ片、腕足類の殻、三葉虫の外殻が翡翠色から褐色に濁る礁湖へと巻き上げられています。低い島々にはリンボク類やゾステロフィルム類、初期のシダ様植物や前裸子植物がまばらに生え、陸上植生の発達がもたらした風化物が海へ流れ込んでいたことを示しています。砕波帯の外側のやや深い海には、遠景に板皮類、初期のサメ、直角石がのぞき、サンゴ礁と脊椎動物の海が広がった「魚の時代」の海の激しい一瞬を伝えています。
沿岸林
約3億8500万〜3億6000万年前の後期デボン紀、ローラシアの低平な河口域では、樹高20〜25 mに達するアーケオプテリス(Archaeopteris)が灰褐色のシルト質 levee に深く根を張り、霧の立つ汽水の水路の上に世界最初期の本格的な森林をつくっていました。画面には、夜明けの金色の光にぬれた羽状の樹冠と、茶緑色の浅瀬をゆっくり進む全長約40 cmの板皮魚ボスリオレピス(Bothriolepis)が見え、まわりには初期の小型リコプシダ類が茂っています。花も草もまだ存在しないこの風景は、深い根をもつ樹木が土壌を発達させ、陸と海の境界の生態系を大きく変えはじめた、地球史の転換点を物語っています。
約3億7500万年前の後期デボン紀、ローラシアの低平な河口性海岸では、平たい頭と頭上の目をもつティクターリク・ロゼアエが、足首ほどの深さの汽水の潮汐水路から身を乗り出し、波紋の残る泥の上に力強い胸びれを突いて原始的な条鰭類の群れへ襲いかかります。画面には、魚らしい鱗に覆われた胴体と可動性のある首、半ば水に沈んだ尾、そして岸辺をつかむアーケオプテリスの根が描かれ、魚から四肢動物への移行を示す決定的な瞬間がよみがえります。周囲のまばらなアーケオプテリス林や初期のヒカゲノカズラ類は、地球最初期の森林の一部であり、こうした泥だらけの水辺こそが後の陸上脊椎動物の進化を支えた舞台でした。
約3億8500万〜3億7000万年前のデボン紀中〜後期、ローラシアの低湿な海岸氾濫原では、地球最初期の森林床のひとつがこのように広がっていました。画面手前では、体長約4 cmのトリゴノタルビド類(絶滅したクモ形類)が、湿った泥と朽ちた木質片のあいだを這う微小な無翅六脚類を追い、周囲にはコケ植物に似たマット、ヒエニア(Hyenia)の細く二叉分枝する茎、そしてドレパノフィクスス(Drepanophycus)に近縁な幼いリコプシダ類が点在します。奥にはアーケオプテリス(Archaeopteris)に似た前裸子植物やクラドキシロプシダ類の幹がまばらに立ち、深い根と初期の土壌がつくられはじめたこの時代、陸上生態系は急速に複雑さを増していました。
約3億8500万~3億6000万年前の後期デボン紀、ローラシアの低平な海岸氾濫原では、激しい嵐と海水の流入によって赤褐色のシルトを含む濁流があふれ、樹高8~15 mほどのアルカエオプテリス(Archaeopteris)の幹のあいだを広がっていました。画面には、深く張った根が崩れゆく泥の岸をつなぎ止める初期の森林と、あふれる三日月湖や汽水の水路、雨に煙る広大な湿地が見え、世界最初期の「森」がいかに大地を安定させ始めたかが伝わります。浅い濁水にはトリスティコプテリド類のような肉鰭類が姿をのぞかせ、岸辺にはパンデリクティスやエルピストステゲに似た初期四肢形類が潜み、魚から陸上脊椎動物への進化が進んでいた水辺の最前線を物語っています。
デボン紀後期、約3億8000万〜3億6000万年前のローラシア大陸の海岸平野では、薄く積み重なった泥とシルトの汽水の入江を、全長約1.5 mのウミサソリ *Pterygotus* がとげのある捕脚を前に突き出して静かに滑るように進んでいました。画面には、濁った緑色の水底に散る微小な貝形虫類と、泥をあさる装甲魚 *Bothriolepis* が対比され、岸辺には低いシダ状植物や若いヒカゲノカズラ類、遠景には最初期の森林を代表する *Archaeopteris* 類がのぞきます。こうした潮汐の影響を受ける水路は、初期の森林と水生動物が出会う境界の環境であり、脊椎動物の陸上進出へと続く生態系の一端を今に伝えています。
約3億8000万年前の後期デボン紀、ローラシア大陸沿岸の浅い炭酸塩プラットフォームには、丸みを帯びたストロマトポロイドや蜂の巣状の群体サンゴFavosites、角サンゴHeliophyllumがつくる斑礁が、澄んだ青緑色の海中に盛り上がっていました。礁のすき間にはレース状のコケムシ、羽のような腕を広げるウミユリ、腕のある腕足類Mucrospiriferが密集し、石灰質の瓦礫の上を体長約10 cmの三葉虫Phacopsがゆっくりとはっています。遠景には、初期の森林を形づくったArchaeopterisや初期ヒカゲノカズラ類のまばらな湿地林がのぞき、海と陸が結びついたこの時代の生態系の豊かさを静かに物語ります。
デボン紀後期、およそ3億8200万〜3億5900万年前のローラシア浅海では、青緑に霞む礁縁の落ち込みの上を、全長約6メートルの板皮類ダンクルオステウス・テレリが、刃のような骨質の顎板をきらめかせながら悠然と泳いでいます。 その下では初期のサメ類クラドセラケが群れをなし、小さなアンモノイド類トルノセラスが漂い、夕方の斜光にプランクトンが瞬いて見えます。 海底には現代型サンゴ礁ではなく、ストロマトポロイドや床板サンゴ、四放サンゴがつくる炭酸塩の礁が広がり、沿岸の原始的な森林から流れ込む栄養分が、この太古の海の豊かな生態系を支えていました。
ゴンドワナ
デボン紀後期、およそ3億8,000万~3億6,000万年前の南ゴンドワナ高緯度の浅海底では、嵐のあとに洗われた海床一面に、肋の発達した腕足類アウストラロスピリフェル(Australospirifer)とレプタエナ(Leptaena)が密集し、その間を栗褐色の三葉虫メタクリファエウス(Metacryphaeus)やブルマイステリア(Burmeisteria)がゆっくりとはい回っていました。見る者の目には、灰色の泥や細かな砂の波痕、半ば埋もれた殻が点在する冷たく緑がかった海底風景が広がります。これは南半球の寒冷な海に特徴的な「マルヴィノカフリック動物群」の世界で、熱帯のサンゴ礁とは異なる、静かで独特なデボン紀の海の姿を今に伝えています。
約3億8200万年前、後期デボン紀フラスニアン期のゴゴ礁ラグーンでは、透き通った青緑の海の底に、塊状のストロマトポロイドと蜂の巣状のサンゴ群体ファボシテス(Favosites)がクリーム色や黄褐色、淡いオリーブ色で広がり、その間を肉鰭類ゴゴナサス(Gogonasus)と小型の板皮類グリーンランダスピス(Groenlandaspis)が縫うように泳いでいます。ここは現在の西オーストラリア州キャニング盆地、当時はゴンドワナ北縁の暖かい浅海で、サンゴとストロマトポロイドがつくる礁が豊かな生態系を支えていました。ゴゴナサスは四肢動物に近い特徴を示す重要な肉鰭類として知られ、装甲の頭胸部をもつグリーンランダスピスとともに、魚類進化が大きく花開いていた“魚の時代”の海を生き生きと伝えています。
後期デボン紀、およそ3億8000万〜3億6000万年前のゴンドワナ北縁(現在のオーストラリア北部)では、礁縁の水路を舞台に、幅広い頭部と力強い顎をもつ四肢動物型魚類マンダゲリア Mandageria が、小型の条鰭類の群れへ突進していました。画面には、ストロマトポロイドや床板サンゴ・四放サンゴが築いたデボン紀らしい礁のあいだで、銀色にひるがえる初期の条鰭類と、その上方の外洋寄りの青い水中を漂うアンモノイド類トルノセラス Tornoceras も見えます。夕暮れの薄明かりに包まれたこの情景は、サンゴ礁生態系が栄え、魚類が急速に多様化していた「魚の時代」の海を生き生きと伝えています。
デボン紀中期から後期、およそ3億9000万〜3億7000万年前のゴンドワナの季節的に湿る氾濫原では、蛇行する川のほとりに高さ10〜20 mのアルカエオプテリス(Archaeopteris)がまばらな林をつくり、赤褐色の泥の上に灰褐色の幹と濃緑色のシダ状樹冠が長い影を落としています。湿った自然堤防には初期のリコプシダ類(ヒカゲノカズラ植物)やトクサ類に近い節のある維管束植物が群生し、倒木や露出した根が、森林がまだ新しく川岸を安定させはじめた時代であることを物語ります。花も草も針葉樹もまだ存在しないこの風景は、ゴンドワナ高緯度地域の温帯的な環境に広がった「最初の真の森林」の一場面であり、深い時間の中で地球の陸上生態系が大きく変わりはじめた瞬間を映し出しています。
後期デボン紀、およそ3億8000万~3億6000万年前のゴンドワナ内陸盆地では、赤褐色や淡紫色の泥岩・シルト岩がひび割れ、浅い網状の一時的水路と塩類に富む泥原が、乾いた季節風にかすむ広大な平原を形づくっていました。水辺にだけ点々と見えるのは、二又分枝する裸の茎と胞子嚢をもつゾステロフィル類や、細い小葉を備えた初期のリコプシド類(ヒカゲノカズラ植物)で、高さはせいぜい0.5~1メートルほどです。まだ森林も花も草原も存在しない時代、生命の気配はまばらで、季節的な豪雨と短命な流れが刻んだ地表に、深い地質時代の静けさが広がっていました。
後期デボン紀、およそ3億8000万~3億6000万年前のゴンドワナの浅い三日月湖では、箱形の重い装甲をもつ板皮類ボスリオレピス Bothriolepis が泥をあさり、その根際の濁った水中では肉鰭類ゴゴナサス Gogonasus が待ち伏せしています。画面には、タンニンで茶褐色に染まった停滞水、沈殿物を巻き上げる底泥、そしてアルカエオプテリス類やヒカゲノカズラ類に縁どられた原始的な氾濫原の森が広がり、被子植物のない世界が再現されています。こうした低酸素の淡水後背湿地は、魚類から四肢動物への移行を理解するうえで重要な環境であり、鰭の内部に四肢に通じる骨格を備えた肉鰭類が、のちの陸上進出への道を切り開いていきました。
後期デボン紀、およそ3億7000万〜3億6000万年前のゴンドワナ南縁では、黒いスコール雲の下、冷たい浅海の波が泥質の干潟と低い砂岩棚を激しく洗い、褐色の堆積物が海へと巻き上がっていました。ここは南米南部や南アフリカに広がったマルヴィノカフリック動物区の高緯度棚海で、温暖なサンゴ礁の海とは異なり、冷水性の腕足類や三葉虫、魚類、そして沿岸にはウミサソリ類(広義のエウリプテルス類)や装甲魚プラコデルミが見られた可能性があります。陸上にはまだ花も草もなく、ゾステロフィルム類・初期リコプシダ類・前裸子植物の低い茂みがまばらに生えるだけで、嵐に打たれた広大で裸地の多い海岸が、デボン紀後期の荒々しい南半球世界を物語っています。
海底
後期デボン紀(約3億8200万〜3億5900万年前)のローラシア近海の深い海盆上空では、薄暗い青緑色の水中を巨大な板皮類ダンクルオステウス・テレリ(Dunkleosteus terrelli)が突進し、小型のアンモノイド類マンティコケラス(Manticoceras)の群れを切り裂くように襲う姿が見られました。周囲では初期のサメ、クラドセラケ(Cladoselache)が機敏に旋回し、上方から差し込む弱い光に淡い腹面をひらめかせています。はるか下の海底には黒色頁岩や石灰質泥岩が静かに積もり、沈降する有機物が絶えず降り注ぐ低酸素の海盆環境は、デボン紀末の海で広がった貧酸素化と外洋生態系の緊張感を物語っています。
後期デボン紀、約3億7200万〜3億5900万年前の深い海盆の海底では、光のほとんど届かない黒色頁岩の泥が静かに積もり、黄銅色にきらめく黄鉄鉱の粒のあいだに、殻長1〜3cmほどの二枚貝ブキオラ(Buchiola)や、3〜7cmほどのファコプス類三葉虫(Phacops)がまばらに横たわっていました。細かな葉理が乱されず、死骸や脱皮殻さえほとんど scavenging を受けずに残るこの光景は、ケルワッサー事変に代表される低酸素〜無酸素の海底環境を物語っています。暗い水中をマリンスノーが降りしきるこの静かな海底は、生命に満ちたデボン紀の海にも、しばしば“息苦しい深海”が広がっていたことを伝えています。
後期デボン紀、約3億8300万~3億5900万年前の外棚~上部斜面では、灰色の泥質海底に腕足類のムクロスピリファー(Mucrospirifer)やキルトスピリファー(Cyrtospirifer)が群れ、5~10cmほどの三葉虫アステロピゲ(Asteropyge)がその間をはい回り、背後にはウミユリのクプレッソクリニテス(Cupressocrinites)がゆるやかな海底流に腕を広げています。弱い青い光しか届かないこの深めの海は、波の影響が及ばない静かな酸素化環境で、泥岩や石灰質頁岩、貝殻片や介形虫に富む堆積物がゆっくり積もっていました。華やかなサンゴ礁とは異なる、薄暗く開けた海底にも、多様な底生動物たちが織りなす豊かな生命の世界が広がっていたのです。
後期デボン紀(約3億8000万~3億6000万年前)の暖かな浅海炭酸塩台地の縁では、太陽に照らされたストロマトポロイドと床板サンゴの礁頂が、たちまち薄暗い外棚~上部斜面へと落ち込み、砕けたファボシテス(Favosites)やアルベオリテス(Alveolites)の礁性礫が斜面を流れ下ります。瓦礫のあいだには角サンゴのヘリオフィルム(Heliophyllum)が立ち、上空の水中には小型アンモノイドのアゴニアタイト(Agoniatites)や、静かに垂直姿勢を保つ直角貝のオルソコニック・ノーチロイドが漂っています。明るい礁から暗く低酸素ぎみの前礁斜面へ移るこの光景は、デボン紀の海でサンゴ礁生態系と外洋性生物が接する境界を、深い時間の一瞬として鮮やかに伝えています。
後期デボン紀(約3億8300万〜3億5900万年前)の外洋表層では、青く緑がかった陽光の海にアクリタークを生む植物プランクトンや放散虫が漂い、それを無数の甲殻類状動物プランクトンが群れて食べています。そこへ、ウナギのような小型脊索動物のコノドント類パルマトレピス(Palmatolepis)や、細いひれ棘をもつ銀色の棘魚類(アカントディア類)が差し込み、微小な獲物を追ってきらめきながら泳ぎ回ります。海底ははるか下の暗がりに沈み、この時代の外洋生態系が、目に見えないほど小さなプランクトンに支えられていたことを印象的に伝える場面です。
約3億8,500万〜3億5,900万年前の後期デボン紀、温暖な浅海へ注ぐ広い泥質デルタでは、20〜30 m級の原裸子植物アルカエオプテリス(Archaeopteris)の森林と、8〜10 mほどのクラドキシロプシダ類ワッティエザ(Wattieza)の林が河口を縁取り、枝片や樹皮を含む茶褐色の水が沖へ流れ出しています。画面には、根に支えられた最古級の高木林、漂う植物片、そしてシルトと有機物に富む濁流が、静かな沖合の海盆へ栄養と泥を運ぶ様子が描かれ、陸上植生の拡大が海の酸素状態や黒色頁岩の形成にまで影響しはじめた“深い時間”の転換点を物語ります。
後期デボン紀、およそ3億8000万〜3億6000万年前の東部ローレンシアでは、アカディア造山運動で隆起した丘陵から、嵐で増水した河川が赤褐色のシルト、植物片、火山灰に富む泥を灰緑色の海へ大量に流し込み、沖合には酸素の乏しい暗い水塊が広がっていました。画面には、針葉樹のような枝ぶりをもつ初期の森の樹木アルカエオプテリス(Archaeopteris)、小型のリコプシダ類、前裸子植物群が点在する流域と、層状に海へ伸びる濁流プルーム、その縁を泳ぐ古鰭類魚や、遠景の装甲魚類アースロディラ類の板皮類が描かれています。山地の隆起、森林化した陸地の風化、そして海盆の貧酸素化がひとつながりに見えるこの景観は、デボン紀後期の海がすでに現代的な陸海相互作用に深く影響されていたことを物語ります。